第18回韓国IPGセミナー(ソウル)・韓国知財セミナー(東京)を開催しました。 2017.07.13
 

韓国IPGは、2017年5月31日、ソウルジャパンクラブ(SJC)内会議室にて第18回韓国IPGセミナーを開催しました。今回のセミナーでは、「韓国における知財権活用―韓国大手企業の知財戦略・強い特許権の取得方法―」と題し、韓国大手企業OBで知財を担当していた専門家と電気・電子分野および化学分野の専門家による講演が行われました。なお、日本の部品・素材企業の韓国知財問題に関するこれまでの議論についての講演もありました。以下で概要をご紹介します。(各発表資料はジェトロ・ソウル知的財産チームのホームページで公開しております)

セッション1「韓国大手企業の知財戦略」

金澤成(キム・テクソン) Ha Patent & Law Firm副所長/米国弁護士

(元サムスン電子半導体IPチーム長/常務)

 

最も強いIP経営戦略とは未来の技術やIPを予測し先取りすることだといえるでしょう。未来を予測する上で注目すべき変化要因としては技術の変化、人口の変化、法の変化があります。この三つの変化要因を分析し、いつ、どこに知的財産を出願し先取りすべきかを把握する必要があります。ここでは範囲を絞って強いIPポートフォリオの作り方、特許1件1件を強くする方法、企業の競争力を強化する特許経営革新に向けたIP部署の役割について説明します。

(1)強いIPポートフォリオの作り方

中長期的な戦略は未来の技術や市場を予測し、将来にその地域で必要とされる特許ポートフォリオの姿について定義し、現在のポートフォリオの姿と比べた後、そのギャップを分析することです。その後、そのギャップを迅速かつ正確に補うことができるように独自開発およびアウトソーシングという二つのトラックを確保する戦略を立て、その戦略にかかわるIP確保戦略に沿って出願・登録を行います。さらにIPを維持するための活動を続けることで未来に必要なポートフォリオを作ることができます。

短期的な戦略は競合会社の製品技術や市場の分析を通じて技術や市場の変化トレンドを把握し、それに連動してIPポートフォリオを補うことです。もはや活用する機会がない特許は年金納付を中止し、変化のトレンドに合わせて係属中の特許出願の請求項を補正し、引き続き再審査を受け続ける必要があります。

(2)特許1件1件を強くする方法

中長期的な戦略は予測した未来の技術や市場をターゲットにし、それに関する特許を出願することです。この場合の出願は広範囲で作成されますが、製品が発売され市場が形成されるまではかなり時間がかかります。

一方、数ヵ月以内に競合会社を攻撃できるような特許を確保する短期的な戦略は、現在発売された製品の技術を対象にし、係属中の特許出願の請求項を補正することです。このように継続出願または再審査の請求を行った件が登録されると、直ちに攻撃特許になるので短期間で攻撃特許を作る上で非常に効果的な戦略だといえるでしょう。

しかし、こうした効果的な戦略を駆使するには先決条件があります。後続技術をターゲットにし権利範囲を補正するには、出願明細書に補正した権利範囲を支持する図面、あるいは最初の出願明細書に詳しい説明が欠かせません。そのため、出願明細書の作成時に、未来に商用可能なあらゆる実施例を含めるようにしなければなりません。このように様々な実施例を含める発明を作るには明細書の作成前に発明の内容を上位、下位、水平に拡張しなければなりません。

(3)企業の競争力を強化する特許経営革新に向けたIP部署の役割

特許出願の時期別動向や発明技術の成熟度を分析することで特定技術や市場の発展段階と成熟度が把握でき、特定競合会社の特許出願動向を分析することで競合会社の技術開発水準と製品の発売時期が予測できます。

実施権のない他社の特許技術を回避するとともに自社の特許技術を製品に積極的に適用することで他社による特許侵害を未然に防止し、独自の特許技術が確保できます。会社の経営戦略に連動して特許ポートフォリオを維持・管理することで資産の無駄遣いを最小限に抑える必要があります。また、競争者、回避できる特許、協力すべき特許、投資または買収する対象の選定も特許情報の分析で可能となります。

 

セッション2「強い特許権の取得方法(電気・電子分野)」

兪炳虎(ユ・ビョンホ) 特許法人NAM&NAM 代表弁理士

(元サムスン電子知的財産センター常務、クアルコム特許法人チームVice President)

  

強い特許とは何でしょうか。強い特許とは特許訴訟で勝つ可能性が高いと思われる特許でしょう。特許ライセンシングや特許取引も最終的に特許訴訟で勝つ可能性があるかどうかがカギを握るためです。実際に訴訟で活用される確率は非常に低いです。そのため勝つ可能性が高いと強い特許だといえるのです。また、勝つ可能性が高いと思われること自体が強いといえます。強い発明が必ず強い特許につながるわけではありません。発明はアイデアですが、特許は言語だからです。発明の言語表現次第では強い特許にも弱い特許にもなりますが、残念ながら実際は後者の方がもっと多いです。

一般的に強い特許になるための要素は四つあります。第一に、特許を回避できないように設計することです。代案があれば、強い特許にはなれません。回避できるアイデアが生まれないよう特許を作らなければなりません。第二に、侵害立証を容易にすることです。目に見えない技術については侵害をめぐる判断が困難です。また、侵害を立証することも容易ではありません。そのため、まるで技術が目に見えるように言語で表現する必要があります。訴訟のための明細書を作成しなければなりません。第三に、特許が生存できるようにすることです。特許は先行技術と共存します。先行技術よって特許が無効にならないよう事前に危険性を取り除き、発明を表現する言語で先行技術との距離を広げる必要があります。第Ⅳに、インパクトの規模です。特許侵害訴訟で勝っても損害賠償額が弁護士費用を下回る場合が多いです。正にコップの中の嵐です。強い特許を目指すなら、発明者でなく世界を広く見渡す必要があります。

それでは強い特許はどうやって作れるのでしょうか。

第一に、請求項の構造が堅調に見えることです。一つの請求項が非侵害だと、他の請求項も非侵害に思われがちな構造ではだめです。同様に一つの請求項が無効だと、他の請求項も無効だと思われがちな構造ではいけません、実際より請求項の数が少ないという誤解を招いてもいけません。そのためには請求項を階層的ではなく、水平的な構造に作らなければなりません。また、請求項ごとに存在理由を与える必要があります。第二に、発明の表現に遠近感を与えることです。発明の記述レベルを多様化することが良いです。機能的表現と構造的表現の調和が必要です。発明の表現は様々な構造を包括しなければなりません。物の構成要件を機能型に作成するよう気をつけなければなりません。強い特許につながる表現が欠かせません。第三に、特許に使われる用語をよく管理することです。一般的に通用する意味があいまいな場合が多いです。辞書上の意味に頼るのは消極的な態度です。自ら特許明細書の主体になって用語を定義し、その意味が均等論の領域にまで広がるよう意図的に管理する必要があります。たまには機能型請求項を活用することが有効になるでしょう。第四に、自ら自分の権利を放棄するか、過度に限定するミスを犯してはいけません。そのようなミスは気づかないところでよく生じます。自分の発明を分かりやすく説明しているうちに自分の権利がそこに限られる場合がかなりあります。特許でも口を慎む必要があるということです。

 

セッション3「強い特許権の取得方法(化学分野)」

金律利(キム・ユリ) 第一特許法パートナー/日本・韓国弁理士 

 

(1)戦略的な特許出願方法

強い特許を取得するためには、質の高い明細書を作成することが最も重要ですが、一旦、出願をすると、該当国の特許制度を活用して戦略的に特許取得を図る必要があります。最近、日本企業による韓国出願のうち、PCT出願が占める割合が増えています。

韓国国内段階への進入時にPCT-PPH(PCT出願の国際段階成果物を利用する特許審査ハイウェイプログラム)を利用して特許決定(特許査定)を受ける可能性を高めることができます。実際、2015年の統計を見ると、1次審査において拒絶理由通知なしで特許査定された割合が通常の出願の場合は7.4%にとどまった反面、PCT-PPHを利用した場合は16.6%と、2倍以上高いものとなっていました。

また、拒絶理由通知を受けた時の特許取得戦略としては、2015年に導入された補正案レビュー制度を利用することをお勧めします。補正案レビュー制度とは、正式補正書および意見書を提出する前に出願人が希望する補正案について審査官の意見を事前に聞くことができる制度です。このような過程を通じて出願人は補正案の特許可能性を予測することができ、これを基に正式補正書および意見書を提出するため、その分特許決定を受ける確率が高くなります。

なお、出願人が意見書および補正書を提出したにもかかわらず、拒絶査定を受けた際にはさらに慎重な対応が必要となります。日本と同様に韓国においてもいくつかの選択肢がありますが、この際に韓国の特許法を活用して戦略的に特許取得を図ることができます。例えば、補正と共に再審査請求(日本の審査前置制度に相当)を行う場合、韓国特許法にはシフト補正を制限する規定がなく、請求項の外的付加も許容するなど、補正要件の判断において日本に比べ緩和された基準が適用されるのでこれを活用した方が良いと思います。また、分割出願の場合、日本の特許法50条の2のように補正範囲を制限する規定がないので原出願と同一な趣旨の拒絶理由通知を受けても当初の明細書の記載範囲内であれば自由に権利化を図ることができます。

 

(2)発明類型別アプローチ

化学分野の発明において頻繁に議論される選択発明の場合は、進歩性を認めてもらうためには選択発明の全てが先行発明と質的に異なる効果あるか、又は量的に著しい差がなければならず、このような効果が当初の明細書に明確に記載されていなければならないというのが韓国法院の一貫した立場である(2008年フ3469判決等)。実際に、韓国法院は上記の基準をかなり厳格に適用してきているため、選択発明の進歩性を認めてもらう事例がかなり少なかったのですが、最近、具体的な適用において緩和された基準で選択発明の進歩性を認めた事例が登場していることに注目する必要があります。2010年フ3424の判決よると、選択発明に複数の効果がある場合、その一部でも先行発明に比べ異質的又は量的に著しい効果があれば、選択発明の進歩性は認められ、当業者がたとえ先行発明からこのような選択発明の効果に関わる技術的課題を認識できたとしても選択発明の進歩性は否定されないとしています。

数値限定発明に関しても韓国特許庁および法院は比較的に厳格な基準で特許要件を判断してきていましたが、最近の判例を総合してみると、少なくとも(i)公知発明と異なる課題を達成するための技術手段を記載し、(ii)それに伴う効果が異質的なものであれば、新規性および進歩性があると肯定的に判断する傾向が顕著になっていることが確認できます。そのため、数値限定発明に関する出願人(特許権者)は、明細書に該当発明の数値限定による効果を多様な観点から記載して置くことが望ましく、審査および訴訟において特許要件が問題になる時に比較対象の先行発明に比べ異質的な効果が認められるという点を強調することが望ましいと言えます。

 

セッション4「部品・素材企業の韓国知財問題に関するこれまでの議論」

駒井慎二 ピラミデ国際特許事務所 代表弁理士

         (元住友大阪セメント知財部 担当部長)

 日本の部品・素材のメーカーが韓国知財問題に関する悩みを率直にぶつけ合うなどの意見交換を目的とした「ラウンドテーブル」が2011年から始まりました。参加メンバーは、部品・素材のメーカーの約20社の他、日本弁理士会、特許庁、ジェトロなどとなり、これまで5回行われました。強大な購買力を獲得した韓国の大手セットメーカーが日本の部品メーカーにとって重要な顧客となっている中、納品後の製品やサンプルが流出または模倣品として流通されるケースや秘密保持契約より踏み込んだ情報を開示させられるケースなどが発生しています。なお、韓国で取得した特許の無効化率が高いなど、費用をかけて特許を取っても権利行使が非常に困難であると悩むケースもあります。他方、部品・素材分野の国際競争力の強化策として、日本企業の間では基盤技術を無償でクロスライセンスをする新たな取り組みも生まれています。

 

韓国知財セミナーを東京で開催しました。

上述した第18回韓国IPGセミナーとほぼ同様の構成で、東京でも6月8日に「韓国知財セミナー」を開催しました。本セミナーには123名の方にご参加いただき、活発な質疑応答も行われました。そのうち、セッション1の「韓国大手企業の知財戦略」における質疑応答をご紹介します。

金澤成講師は、「技術市場の成熟度を特許の分析を通じて把握する具体的な例」を聞く質問に対し、「例えば、半導体においては、トランジスタ→工程技術→回路技術の順に技術の進歩が起こりますが、上記の各技術分野別に出願件数が最高点から減少すれば次の段階の技術に進入するか、製品が直ちに市販されることが推定できます」と答えました。また、「技術開発以外で特許をどのように活用しますか」とする質問に対しては、「技術者の採用を行う際、求める分野の特許をリサーチし、最も良い発明技術を最も多く特許出願した発明者にアプローチする」とした上、「機械や材料などを買う際に該当製品に対する特許をしっかりと構築している企業を選ぶことで知的財産権を巡る紛争を未然に防ぐことができる」と答えました。

最後に本セミナーでは、ジェトロの笹野秀生副所長が知財分野を含めたさまざまな日系企業の建議事項を毎年、韓国政府に提出する「事業環境の改善に向けたSJC建議事項」について紹介しつつ、同建議事項に対する積極的な意見提出を求めました。2017年度の意見募集の実施計画については、ジェトロ・ソウル知的財産チームのホームページをご参照ください。

 
 
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