「韓国知財セミナー『韓国特許法・進歩性判断の最新状況』(東京・大阪)」で開催しました。  2017.03.29
 韓国では、知的財産の重要性がますます向上している中、意欲的な制度整備が進められており、2016年には特許取消申請制度や証拠提出命令の強化等重要な特許法改正が行われました。また、韓国における進歩性判断については、近年重要な判例が多く出されており、実務家にとって注目すべき状況となっています。そこで、ジェトロでは、2017年2月7日、8日に「韓国知財セミナー『韓国特許法・進歩性判断の最新状況』」を東京・大阪にて開催しました。以下で、概要をご紹介します。(発表資料はジェトロ・ソウル知的財産チームのホームページで公開しております)
  
〇韓国の最新知財事情
-ジェトロ・ソウル 笹野秀生 副所長

 まず、セッション1では韓国知財に関する最新統計をはじめ、第2次知識財産基本計画、改正商標法等をご紹介しました。最新統計を見ると、中小企業の特許出願の増加傾向が著しくなりつつあります。その増加原因としては、①国民の知財に対する意識の高まり、②国の政策(研究開発の費用を補助する際に特許出願を求める政策や知財権を担保にして融資する政策等)、③比較的に多い中小企業同士の紛争が知財権取得に対するモチベーションを強化させた等と分析しています。

〇韓国における最新の特許法改正について
-韓洋国際特許法人 金世元 パートナー弁理士

 セッション2では、韓国における最新の特許法改正の例として、①特許取消申請制度の導入、②侵害訴訟時の資料提出義務の強化、③外国語特許出願制度の導入、④分割出願時期の拡大、⑤審査請求期限の短縮(5年→3年)、⑥職権再審査制度の導入、⑦職権補正の範囲の拡大、⑧特許訴訟管轄集中等についてご説明いただきました。そのうち、①と②の主な内容を以下で、ご紹介します。

①「特許取消申請制度の導入」(特許法第132条の2から132条の17まで)
 2017年3月1日から設定登録される特許に対しては特許取消申請制度が適用され、登録公告日から6ヶ月以内には誰でも特許取消申請が可能となりました。韓国ではそれまでに無効審判請求の場合、登録公告日から3ヶ月以内には誰でも無効審判を請求することができましたが、特許取消申請制度の導入により、無効審判は利害関係人だけが請求できるようになり、身分を隠して登録特許の有効性を争うとする場合には特許取消申請を利用しなければなりません。

 韓国の特許取消申請制度は日本の特許異議申立制度とほぼ同じと言えますが、いくつかの点で異なる点があります。まず、韓国の場合、特許取消申請ができる理由は、新規性・進歩性欠如および先願違反に限定され、特に新規性・進歩性欠如に関する証拠は特許公報のような刊行物に限られます。一方、日本の場合、新規事項違反や記載要件違反も異議申請の理由になり、また、新規性・進歩性欠如に関する証拠は刊行物だけに限定されません。なお、韓国の場合には、訂正請求が可能な期間およびその期間の満了日から1ヶ月以内に訂正請求を取り下げられます。一方、日本の異議申立制度では、無効審判での無効審決予告制度のように取消決定の予告として取消理由を通知し、訂正の機会を追加で与えますが、韓国の場合には、そのような取消決定予告はありません。また、日本では訂正があれば、申請人に意見を聞くプロセスがありますが韓国ではありません。

②侵害訴訟時の資料提出義務の強化(特許法第132条)
 改定前の特許法では、特許侵害訴訟で当事者に対する侵害行為による損害の計算をするため必要な書類の提出を命じた際に被告が自分の営業秘密という理由で提出を拒否すると、法院がその提出を強制する規定がありませんでした。また、法院は、当該侵害行為について立証するため必要な書類に対しては、提出自体を命ずることができませんでした。そのため、侵害を立証するための大半の書類や資料が被告人の侵害者に偏重し、権利者である原告者は自身の損害の全部を認めてもらうことが事実上不可能でした。

 しかし2016年6月30日の訴訟からは、これに関連した特許法の規定が大幅に改定され、制度の改善が図られました。具体的には、特許侵害訴訟における法院の資料提出の命令対象範囲が書類から資料に拡大されました。また、改定前には損害賠償額の算定だめにだけ資料の提出を命じられたが、改定により、侵害に対する証明資料も提出を命じられるようになりました。また、資料の提出を命じられた当事者、特に被告人の侵害被疑者は提出すべき資料が営業秘密という理由だけで資料の提出を拒めません。裁判所は、資料の提出命令に応じなかった場合、資料の記載に関する相手の主張を真実であると認めることができます。

〇韓国の進歩性関連実務および判例の変化動向
-韓洋国際特許法人 金世元 パートナー弁理士

 セッション3では、進歩性の判断時に考慮すべき事項と進歩性判断基準の変化についてご発表があり、その後、発明の類型別進歩性判断基準・判例のご紹介をいただきました。そのうち、進歩性判断基準の変化の主な内容を以下で、ご紹介します。

 大法院の2007年9月6日言渡2005Hu3284判決で結合発明の進歩性判断の手法を詳しく提示したことにより、その後の進歩性判断の実務の変化を期待できるようになりました。この判例の核心は、複数の先行技術文献を引用して特許発明の進歩性を判断するに当たっては、その引用される技術を組み合わせまたは結合すると当該特許発明に想到できるという暗示や動機等が先行技術文献に提示されているか、そうでなくても当該特許発明の出願当時の技術水準、技術常識、当該技術分野の基本的な課題、発展傾向、当該業界の要求等に照らして、その技術分野における通常の知識を有する者が容易にそのような結合に至ることができると認められる場合には、当該特許発明の進歩性は否定されるということです。これ以前は、結合発明においても、結合の容易性に対する具体的な判断よりは、効果の顕著性に重点を置いて進歩性の有無を判断することが一般的だったため、進歩性の判断において容易想到性の判断手法や根拠を本判例のように具体的に提示したことがなかったことから、本判例は大きな意味を持つこととなりました。

 進歩性判断基準の適用状況をみると、特許庁と特許審判院は未だに従来の基準による審査傾向が強いです。しかし、最近になっては、特許法院と大法院では従来の基準をほとんど引用しなくなり、2007年の新判例の判断基準を主に引用して引用文献の結合可能性について審理しています。そのため、特許審判院の審決が上級機関である特許法院と大法院で廃棄される事例も増加しています。例えば、審判段階で特許発明に対して有効するという審決が下されたことに対し、特許法院に不服した事案で請求を棄却した比率、すなわち依然として特許発明が有効であると判断した割合は、2012年には30%未満だったのですが、2015年には約60%に近くなるなど、飛躍的な変化があり、この変化は2016年までも続きました。このように少なくとも特許法院と大法院では進歩性により特許発明の特許性を否定するに当たっては以前より確実に一層慎重になりつつあります。

 韓国の特許法院が進歩性判断の基準をより厳格に適用しようとする傾向を見せている点を勘案し、今後は、広い請求の範囲を確保するためには、特許法院での訴訟を積極的に活用する必要があり、また、登録された特許を無効化させることが難しくなるため、競争会社の特許を無効化させるためには細密な検討が必要と言えます。
 
 
 
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