第17回韓国IPGセミナーを開催しました! 2017.01.16
韓国IPGでは、2016年11月29日(火)ソウルグローバルセンターにて、第17回韓国IPGセミナーを開催しました。今般のセミナーでは、「知財紛争解決の方策」と題して、知財分野でのご経験が豊富な4名の専門家の皆様にご登壇いただき、韓国における知財紛争解決の環境や、他国の状況などをご紹介いただきました。また、講演後に、講演者の皆様全員にご登壇いただくパネルディスカッションの時間を設け、深い話を聞くことができる機会となりました。以下のとおり、講演の概要をご紹介します。

セッション1「知財紛争解決方策の全体像」
-尹宣熙 漢陽大学校法律専門大学院教授・韓国知財学会会長

 知財紛争の解決方法のうち、最も望ましいことは、話し合いで解決することですが、話し合いで解決できない場合は、法律に委ねなければなりません。しかし、法律による解決(訴訟)はコスト・時間がかかるという問題点があります。その訴訟の問題点を簡単にするのがADR(裁判外紛争解決手続)です。IPの紛争が多発する中、様々な紛争解決機関が現れております。
このような現状の中、知財紛争におけるADRの必要性も高まりつつあります。技術変化の激しい知財分野は、法廷で紛争解決することは非常に簡単ではありません。知財紛争は、①侵害が容易ですが、侵害立証が困難です。また、②判断のために法律的知識を要し、③判決の属地主義のため管轄地によって判断が異なる可能性があり、グローバルになっていく国際紛争に対応しにくいです。さらに、④利害関係者が存在すること、⑤技術の秘密維持が難しくなることも問題です。そのため、韓国裁判所では、侵害に関する規則を作る等の多くの努力を講じています。また、IP分野において様々な機関でADRに対し関心を持って導入しています。
韓国の代表的な仲裁・調停機関には、大韓商工会議所傘下の大韓商事仲裁院、韓国裁判所傘下の法院調停センター、ソウル地方弁護士会の調停・仲裁センターがあります。ADRは、裁判官のみならず、知財分野の有識者等が参加することができ、訴訟における①技術的専門性の欠如を補完します。また、公開審理を行う訴訟とは違って、②ADRは非公開で行われます。また、③形式や準拠法に影響を受けないため柔軟な解決を図ることができます。④裁判より迅速に経済的に解決することができます。
 日本の場合、「日本商事仲裁協会」を通じて仲裁を行う傾向があるが、韓国ではそれに相当する「大韓商事仲裁院」では、他の事件と関連がない限り、知財に係る仲裁はあまり行われず、様々な機関で行っています。特許庁傘下の「産業財産権紛争調停委員会」は、調停範囲を拡大し、産業財産権以外にも営業秘密・通常実施権の調停も担当することになっています。件数は少ないものの、最近の2年間申請件数が増えつつあり、成立率も増加の勢いを見せています。
著作権に関しては、「韓国著作権委員会」、「コンテンツ紛争調停委員会」があります。著作権の場合、国民すべてが著作権者であり、侵害者にもなり得るため、産業財産権より調停件数が多いです。韓国の代表的な知財ADR機関及び最新の知財申請件数をまとめると以下のとおりです。



 
セッション2「韓国におけるADRの実態」
-鄭陳燮 法律事務所SOUL 代表弁護士

  紛争解決の方法は、当事者間の交渉による和解(自主的解決)と第三者の介入による解決(受動的解決)の斡旋、調停、仲裁、訴訟に分かれます。しかし、訴訟以外の方法(ADR)は、両当事者の意思が最も重要であり、攻撃的当事者と防御的当事者の間でお互いを理解する気持ちがADRの前提です。
 大韓商事仲裁院の仲裁件数をみると2011年~2013年の間の国際仲裁率は約26%です。2011年から内外国人が同等な基準で仲裁を受けることになり、韓国仲裁人の信頼度は非常に高いと言えます。国際仲裁事件の大陸別現状をみると、アジア太平洋地域が65%であり、国別でみると中国(38%)、米国(9%)、シンガポール(8%)の統計を見せています。日本は6%を占めており、日本が韓国に与えている経済的な影響力、日韓経済交流を考えると比較的に少ないと考えられます。
 ADRのうち、斡旋は1967年から2013年まで21,711件の申請を受け付け、2012年には938件で過去最多件数に登りました。斡旋という言葉が法律用語として馴染みのない言葉かもしれませんが、2013年の斡旋事件の61%が円満に解決されており、効果的な方法の一つです。調停件数は、2010年5月開始以来2013年まで2,371件が申請されており、39.2%の合意成功率を見せています。仲裁を行う場合、仲裁人選定時に自分の意見を積極的に反映する必要があります。3人の仲裁人のうち、一人の性向を把握できなかった場合、又は誤判した場合、仲裁でいい結果を導くのは難しくなります。
 2016年11月30日施行の改正仲裁法は、3年間の立法作業の結果、2016年5月に成立した法律であり、本改正で、韓国がアジア太平洋地域の仲裁ハブに成長するための礎になることが期待されます。具体的な改正内容をみますと、①「私法上の紛争」だけでなく「財産権の紛争及び和解可能性のある非財産上の紛争」に仲裁対象が拡大されました。また、②仲裁契約が「当事者が署名した文書」に限って有効だったものを「口頭や行為、その他のいかなる手段」で行われた仲裁契約もその有効性を認めるようになりました。さらに、③改正前には、仲裁判定部の臨時処分が裁判所において執行されないという弱点がありましたが、改正法により、仲裁判定部の臨時的処分が執行される法律的根拠と細部規定を設けました。これは、韓国が対外的に仲裁先進国であることを宣言する効果があるため、外国人が仲裁地として選択する可能性を向上させると考えられます。
 
セッション3「韓国特許法院-アジアのハブを目指して-」
-郭富圭 Lee&Ko法律事務所弁護士(前 特許法院判事)

  韓国特許法院では、裁判における専門性を確保するために、知財訴訟の管轄集中を2016年1月1日付で施行しました。その結果、行政訴訟の性格の審決取消訴訟のみを特許法院で取り扱ったのに対し、民事訴訟の性格の損害賠償及び差止請求事件の第二審を特許法院で担当することになりました。また、知財専門人材の拡充も行っており、特許法院では、特許庁派遣の15人の他に、5人を特許法院独自で選抜しており、ソウル中央地方法院でも5名を追加で選抜しました。検察もソウル中央地方検察庁で3人の諮問官を選抜し、大田地方検察庁では4人の諮問官が特許庁から派遣されています。さらに、2014年まで部長判事は2年以下、陪席判事は3年だった特許法院判事の勤務期間を2015年以降、部長判事2年前後、陪席判事3年超過可能となり、裁判官の専門性向上を図っています。また、特許法院長が裁判長となる特別裁判部(重要案件)、裁判官全員が部長判事で構成される対等裁判部(一般案件)を運営しています。
 特許法院の事件受付現状をみると減少傾向となっていますが、それは、特許審判院に申請される案件の減少によるもので、今年は、管轄集中による民事訴訟案件が算定されるため、件数は増加すると考えられます。2012年度の特許法院の平均処理期間をみると平均5か月程度です。長期案件を除くと4か月以下の期間です。最近は、迅速性より判決の質を重視している傾向から、書面提出期日の延長等をよく許容する趨勢です。また、容易な弁論準備のために、2016年3月に侵害訴訟の審理マニュアル、9月に審決取消訴訟の審理マニュアルを制定しました。
 専門家の証言は、形式的な不自然さ、裁判官の判断を歪曲する恐れから、以前は、あまり認められていませんでしたが、最近では、迅速より質を重視するトレンド、技術的専門性の向上が期待される理由から多く認められます。ここで重要なのは、専門家は、科学的な知識を話すだけですが、一方の当事者の申請で証言するわけですので、申請した当事者に有利と言えます。ですので、相手側が専門家証言を申請した場合、必ず申請してください。
特許法院では、2016年4月に調停委員会を設置しました。調停委員は、弁護士17名、教授5名、科学研究員6名からなります。特許権等の侵害控訴事件で受け付けられた63件のうち、8件が調停に回付され、1件は調停成立、1件は強制調停となりました。調停が裁判所から提案された際、調停の有利・不利を判断して、受け入れるかどうかを明確に意思表示する必要があります。調停を受け入れた後、途中でやめる場合、裁判の結果に影響を及ぼす恐れがあります。
裁判所は権利者のみを保護する立場ではなく、その反対側も保護しなければなりません。しかし、権利者保護を強化しつつあります。特許法第132条改正により、証拠提出命令を強化して、権利者の侵害を受けた事実に関する立証責任を緩和したことに加え、営業秘密侵害に対する懲罰的損害賠償(3倍)や罰金の増額(10倍)も議論中です。韓国知財の代表的な問題として、高い無効率が挙げられます。日本は、2008年以来減少傾向を見せていますが、韓国は、裁判の段階で新証拠が提出でき、特許審判院の決定文を参考し、新しい証拠を提出する場合が多いため、無効率が高いと考えられます。
特許法院では、国際裁判部の設置に関して議論を続けており、国際裁判部で合理的な判決を下し、国際的な信頼を得て、アジアのハブ裁判所となることを計画しています。議論当時の考慮事項として、英語弁論、英語書面提出、翻訳判決文等がありました。また、電子訴訟インフラを利用し、外国人の専門家証人が遠隔で証言することが議論されています。

セッション4「グローバルIP紛争及びADRによる解決」
-柳知延 法務法人(有限)太平洋 弁護士(前SIAC Counsel/Head(North East Asia))

 日韓企業の事業がグローバル化するとともに、海外での紛争も増えています。その際、紛争解決場所を当事者の地域ではない第三地域にしようとする傾向があります。これが国際仲裁の増加の背景です。WIPOの調査によると仲裁は紛争解決方法として訴訟に匹敵するほど選択されています(仲裁:30%、訴訟:32%)。契約当事者間の紛争において、最も重要なものは契約書です。日韓を含むアジア国家は、契約書を軽視する傾向があります。日本はアジアで契約書を重視する国であるものの、役割の仕分けを曖昧にしてしまう事例が多いと言われます。紛争解決条項の確認を確実にしないと交渉で有利になる機会を失うことになります。国際契約締結時には、参加主体間における権利義務関係、事業化による収益配分及び精算方法、紛争解決方法を明示しておかなければなりません。特に、紛争解決方法を重複記載したり、同一事業の紛争解決方法がバラバラだと期待外れの結果となる事例もあるので、注意が必要です。
 ADRのうち、調停は当事者の紛争を和解へと誘導する非公式的合意手続であり、強制執行力がありません。よって、調停文に同意しなければ、その調停は成立しません。一方、仲裁は、ニューヨーク条約に基づき、最終結果に国際的執行力が認められており、訴訟に代わる手段になり得ます。その他、調停の結果を仲裁結果にする「Arb-Med-Arbモデル」を利用するケースも増えています。
 仲裁の長所としては、①複数地域における紛争を一挙に解決することができること、②訴訟とは異なり、秘密を保持することができること、③両当事者の合意があれば手続きを柔軟に運用できること、④米国訴訟の場合、非専門家(陪審員)の判断で判決が下されるのに対し、仲裁は専門性が期待できること、⑤前述のとおり、ニューヨーク条約による国際強制執行力があることが挙げられます。契約書の仲裁条項を作成する際に、ある程度信頼を受けている仲裁機関のうち一つを選択すれば、どの国の機関を利用するかはあまり重要ではないと言えます。一般的に仲裁機関が仲裁人を選任する際には中立性を理由に当事者とは同じ国籍ではない第三の国籍の人を仲裁人に選任する傾向が高いです。機関より重要なのは、仲裁地と準拠法です。仲裁地・準拠法は仲裁機関の所在地で決まるわけではなく、第三国の地域・法律を指定することができます。ですので、自分の交渉力を最大限利用し、自分に有利な仲裁地・準拠法にする必要があります。
 国際紛争に関する注意事項として、まず、文書管理の重要性です。日系企業の失敗事例として、原本を確実に保管しなかったり、毀損され重要な証拠が存在しなくなるケースがたまにあり、通話内容・会議内容の議事録等を残さず、不利な立場となったことがあります。また、英米側ではAttorney-Client Privilegeが認められることに対し、日韓では当該権利が法律で保障されていないため、国際仲裁に備えて、機密書類の上段には「Confidential-Privileged」と表記することをお勧めします。最後に、法律費用を単純に費用と考えず、予め適切な助言を受け、紛争を予防及び早期対応できるように、十分な法律費用を年度の予算額に事前に反映しておく必要があります。
 
パネルディスカッション:韓国知財紛争解決の現在と未来

 講演後には、各講演内容を踏まえて、講師の皆様のご高見を聴取いただく、パネルディスカッションを行いました。
第一に、モデレータからの「韓国における特許取得の意味は」との質問に、鄭弁護士は「韓国は世界的にも知財権を尊重する風土を有しており、損害賠償額は低いが、それだけでは測れない価値がある」と答え、郭弁護士は「韓国では特許を通じて製品の技術的優秀性をアピールし、ネームバリューを上げることができ、訴訟も損害賠償より競争会社の入札・事業者選定を無力化するために行われるケースも多い」と特許取得の意義を説明しました。
 第二に、「他国に比べた韓国における紛争解決のインフラ」との質問に、鄭弁護士・柳弁護士は、「韓国におけるADRインフラ現状は十分に整備されており、国際的な競争力を持っている」と答えました。また、尹教授は「国際紛争の解決の際、ホームで行うことが有利な面もある」と答えました。
 第三に、「韓国は紛争解決の国際的なハブになれるか」の質問に対し、郭弁護士は、「特許法院に訪れる当事者・代理人が殆ど韓国人と言えるのに、無理やり英語で弁論等を行う需要があるとは言えない。結果的にIPの国際的仲裁センターという方向になると考える」と答えました。これに対し、鄭弁護士は、「電子訴訟の土台となった遠隔訴訟は、20年前には多くの裁判官から批判を受けたが、現在の電子訴訟システム構築へとつながった。国際裁判所という構想も実現できると考える」と答えました。
 第四に、「企業にとって理想的な紛争解決とは」という質問について、尹教授は、「日韓の企業が韓国で知財紛争を解決するときは、韓国の弁護士事務所・特許事務所を上手く選択しなければならない」と答えました。柳弁護士は、「仲裁の準拠法を日本法、仲裁地を日本にすれば、日本の弁護士が介入する機会が増え、仲裁に問題があった場合でも日本の裁判所に申立ができる。これは韓国の場合も同じ」と答えました。また、鄭弁護士・柳弁護士ともに、「仲裁において、日韓同士で対立関係でなく、大陸法の先進国として協力すべきである」と発言しました。
 最後に、聴衆の方からの国際的紛争解決に関する質問に対し、郭弁護士は、「韓国は、仲裁ハブを目指すべきだと考えるが、韓国は国際的信頼度を重要視するため、外国企業も安心できる判断を下している。日系企業は仲裁・訴訟問わず、自分に有利な制度を積極的に利用できる」と答え、柳弁護士も同意しました。
 
 
 
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