著作権  ソウル中央地方法院
原告 株式会社A、B、C社、D社 vs 被告 株式会社E 2016ガ合534984
2017-06-15 控訴審係属中
【事実関係】
 原告Bは、従来の疼痛治療では手当てしきれない慢性的疼痛、癌性疼痛および難治性疼痛の軽減のために、微細電流とともに無疼痛情報を神経に伝える内容の本件治療方法を研究した。原告Bは自身が設立して運営中である原告C社とともに、本件治療方法に基づいた医療機器製造のために訴外F社と契約を締結し、原告株式会社Aは2007年9月25日頃、訴外F社と上記の医療機器製造のための特許権(当時出願中)およびノウハウなどの権利に関してライセンス契約を締結した。原告Bは本件治療方法に関して2011年7月15日、K, L, M, Nとともに『Journal of Pain and Symptom Management』に論文を掲載し(以下「本件第1著作物」)、2012年、NとともにASCO(American Society of Clinical Oncology)の定期会議で発表した(以下「本件第2著作物」、総称して「本件各著作物」とする)。その後、原告BおよびC社は訴外F社との契約を解消し、本件治療方法に基づいた「モデルQ」という原告医療機器製造に関するすべての権利を原告D社に譲渡した。原告株式会社Aは訴外F社との契約関係を通して確保した権利を引き継ぐために、2013年1月31日に原告B、C社およびD社と上記医療機器を独占的に製造し全世界に供給することを定めた契約を締結した。原告株式会社Aは2011年7月7日頃から本件供給契約に基づいて本件治療方法のための原告医療機器に関して認証を受け製造・販売しているが、保健福祉部では2013年2月28日、本件治療方法の安全性と有効性を認めこれを新医療技術に指定する内容の告示をし、原告医療機器を利用した治療が健康保険行為の「認定非給与」項目 に認定されている。
 被告は2015年10月13日、医療機器製造業許可を受け、2016年1月6日に経皮性疼痛緩和電気刺激装置医療機器(以下「被告医療機器」)について品目許可を受けて製造・販売した。被告は原告医療機器を利用した治療行為が非給与対象となるやいなや、健康保険審査評価院に本件治療方法に関する同等製品である被告医療機器を利用した治療行為についても非給与対象認定を申請し、具備書類上の「国内外の研究論文など関連資料」欄に本件各著作物の題目、臨床主要内容、臨床方法、結果、結論などを記載して本件第1著作物の写本を添えて提出した。

【判決内容】
 本件で原告は、長期間にわたる研究の末に世界で初めて本件治療方法を開発し、本件治療方法を実現するための医療機器の開発および商用化のために数多くの臨床実験とマーケティングを行うなど、相当な投資と労力を傾けたと主張して、被告が原告の医療機器と類似の医療機器を製作・販売した行為、および被告医療機器を製造する過程で原告の成果を模倣することによって別途の臨床試験などの確認過程を経ずに原告医療機器の価格より非常に低い価格で被告医療機器を販売することにより原告に被害をもたらしたため、被告の行為は不正競争防止法違反または民法上の不法行為に該当すると主張した。これに対し法院は、本件において特許主張が排除されている以上、治療方法自体に対する独占的・排他的地位を認める根拠はなく、本件治療方法のための医療機器を製造・販売する行為になんらかの違法性が認められるとは言い難いとして、原告の主張を排斥した 。
 一方、原告は選択的主張として、被告が健康保険審査評価院に被告医療機器による治療行為に対する非給与対象認定を申請する際に、原告Bが著作権を保有している本件各著作物を臨床試験資料として複製して提出したため、これは著作権侵害行為に該当すると主張し、これに対し被告は本件各著作物の利用は公正利用に該当して著作権侵害が認められないと主張した。この部分に対する法院の判断の詳細は次のとおりである。

イ.関連法理
 著作権法は韓米FTAに基づき2011年12月2日法律改正により著作権法第35条の3(著作物の公正な利用)を新設し、公正利用(Fair Use)の法理を明文で導入した。本件に適用される旧著作権法(2016年3月22日法律第14083号で改正される前のもの)第35条の3によれば、著作物の通常の利用方法と衝突せず、著作者の正当な利益を不当に損なわない場合には、報道・批評・教育・研究等のために著作物を利用することができる例外を認めるために、1.営利性または非営利性等利用の目的および性格、2.著作物の種類および用途、3.利用された部分が著作物全体において占める比率およびその重要性、4.著作物の利用がその著作物の現在の市場もしくは価値または潜在的な市場もしくは価値に及ぼす影響を考慮しなければならないと規定している。
 具体的に著作物の利用の目的が原著作物の市場または価値に及ぼす影響を中心に検討するが、著作物が原著作物とは異なる変形的方法や変形的目的で利用され、原著作物を単に代替するのではなく新しい価値を付与したとすれば公正利用と認めやすく、著作物を利用した後、原著作物を利用する動機が相当部分減少し「原著作物の需要代替性」が認められるとすれば公正利用とは認め難い。これに関する原著作物の市場または価値の範囲は著作物それ自体だけでなくその著作権の効力が及ぼす二次的著作物の市場範囲を含むが、著作権自体による市場範囲に限定されその著作物に含まれた内容による市場範囲にまで拡張されるものではない。一方、営利性は利用者の動機が金銭的な利得を得るためのものか否かではなく、利用者が一般的な代価を支払わずに著作物を利用して利益を得たか否かを意味するもので、利用する著作物自体の営利性に限定しなければならないが、現代社会においてはメディア・教育・研究等のための目的であるとしても、その営利的動機を完全に排除することは難しいため、営利性それ自体を重要な要素と判断することは難しい。したがって単に利用者に営利的な動機や目的があるという理由で公正利用として認めることができないものではなく、その営利性や利用の目的が十分に変形的と認められ原著作物の現在または潜在的な市場または価値に否定的影響を及ぼさないのであれば公正利用と認めることができる。

ロ.判断
 「営利性または非営利性等利用の目的および性格」について考えてみると、被告は健康審査評価院に被告医療機器による治療行為に対する非給与対象認定を申請し、研究論文など関連資料の提出を求める国民健康保険法令の書式の記載に基づいて本件各著作物を利用したところ、その利用の目的である、行政手続である非給与対象の審査のためのもので、学術研究が目的である本件各著作物とは異なり十分に変形的目的で利用され、その利用の性格も上記審査のためのもので営利性は微弱といえる。被告が自社の営業のために審査を申請したとしても、これは被告医療機器に関する営利性といえるもので、本件各著作物を利用することに関する営利性であるとは言えないため、公正利用を認めるのに有利な事情と参酌できる。「著作物の種類および用途」についてみると、本件各著作物は公開された学術誌に掲載された学術論文として広く利用されることが社会的・科学的発展に役立ち、知識の蓄積を通して社会を発展させるという著作権法の目的にも合致するため、公正利用を認めるのに有利な事情と参酌できる。「利用された部分が著作物全体において占める比率およびその重要性」についてみると、被告は本件第1著作物の全部を複写して提出したため公正利用を認めるのに不利な事情と認定される。「著作物の利用がその著作物の現在の市場もしくは価値または潜在的な市場もしくは価値に及ぼす影響」についてみると、本件各著作物は学術論文であって、被告が上記のように変形的目的で利用したことによってその市場または価値が毀損されたとは言い難く、行政官庁に提出したものに過ぎないためその利用により原著作物である本件各著作物の需要代替性が認められるとも言えず、本件各著作物の内容(アイデア)にまで市場または価値の範囲が拡張されるとも言えないため、被告が被告医療機器を販売しようとする営利性は本件各著作物の市場または価値を侵害せず、これを公正利用と認めるのに有利な事情と参酌する。
 前述の各要素を総合してみれば、本件各著作物は学術論文で、より広い範囲の公正利用の認定が 可能であり、認定された利用の目的や営利性は本件各著作物の現在の市場もしくは価値または潜在的な市場もしくは価値に否定的な影響を及ぼさない。ここに、著作権法第23条にて「行政の目的のための内部資料として必要な場合には、その限度内において、著作物を複製することができる」としている点 を加えて見れば、被告が本件各著作物を利用したことは著作権法第35条の3の公正利用に該当すると見るのが相当で、「利用された部分が著作物全体において占める比率およびその重要性」の要素が否定的な要素であるとしても、その利用が変形的目的で利用され実質的に本件各著作物の市場または価値を侵害しないところ、これを根拠に上記の肯定的な要素を排斥して公正利用の成立を否定するには不足であるする。

【専門家からのアドバイス】
本件判決は、下級審ではあるものの、韓国に公正利用の法理が導入されて以来初めて公正利用の抗弁を認めた事例と思われる(一方、公正利用の抗弁を排斥した事例はすでに存在する )。法院は、韓国著作権法が導入した公正利用の考慮要素のうち最初の要素である「利用の目的と性格」(特に変形的利用か否か)と、最後の要素である「著作物の利用がその著作物の現在の市場もしくは価値または潜在的な市場もしくは価値に及ぼす影響」により重点をおいて判断した。著作権法の改正により公正利用の法理が導入される以前は、本件と類似するケースである、医薬品と関連する行政手続で食品医薬品安全庁に他人の論文全体を複製して提出した事案の刑事事件では有罪を認められていたが(大法院2013年2月15日言渡し2011ド5835判決)、これと比較してみれば逆の結論となった。上級法院の判断を残してはいるが、一旦は法規定に対して合理的判決であると思料される。

 
 
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