特許  大法院
原告、被上告人 審判請求人 vs. 被告、上告人:特許権者 2014フ2184登録無効
2016-11-25 破棄差戻し

【概  要】
記載上の不備を解消して正す誤りの訂正には、特許請求の範囲に関する記載自体が明瞭でない場合、その意味を明確にしたり記載上の不備を解消すること、及び発明の詳細な説明と特許請求の範囲が一致しなかったり矛盾がある場合、これを統一して矛盾をなくすこと、などが含まれるが、特許請求の範囲に記載されていない事項が発明の詳細な説明に含まれているとしても、直ちに、発明の詳細な説明と特許請求の範囲が一致しないとか、又は矛盾がある場合とは言えず、特許請求の範囲、及び発明の詳細な説明の記載自体が明瞭でないものと見られないのであれば、特許請求の範囲に記載されていない事項を発明の詳細な説明から削除する訂正は「不明確な記載を明確にする場合」に該当しない。
また、本願の明細書に開示されている技術を知っていることを前提として、事後的に進歩性を否定することは許容されない。
 
【事実関係】
発明の名称を「熱貯蔵チップを備えたディスペンサ」とする本件特許発明に対する無効審判手続において、特許権者は訂正事項1~4を請求した。本件第1項の発明には熱貯蔵チップの材質として、金属またはセラミックが記載されていたが、発明の詳細な説明には熱貯蔵チップの材質として、金属またはセラミックだけでなく、高密度プラスチック、複合物等も含まれるものとして記載されていた。本件訂正請求は、特許請求の範囲に記載されていない高密度プラスチック、複合物などを発明の詳細な説明から削除することを内容とするものであったが、原審は、本件訂正請求が「不明確な記載を明確にする場合」に該当しないと判断した。
そして、原審は、本件第1項の発明が比較対象発明1によってその進歩性が否定され、その従属項である本件第2項~第9項の発明も進歩性が否定されると判断した。このような原審判決に対して特許権者は上告した。
 
【判決内容】
1.訂正要件について
特許請求の範囲は、発明の詳細な説明に記載された技術的思想の全部または一部を特許発明の保護範囲として特定したものであり、発明の詳細な説明に記載された全ての技術的思想が必ずしも特許請求の範囲に含まれなければならないわけではないので、特別な事情がない限り、特許請求の範囲に記載されていない事項が発明の詳細な説明に含まれているとして、発明の詳細な説明と特許請求の範囲が一致しないとか、又は矛盾がある場合とは見難い。
発明の詳細な説明に記載された「高密度プラスチック、複合物等」は、その記載自体が明瞭でないものと見られない。また、特許請求の範囲に記載されていない高密度プラスチック、複合物などが発明の詳細な説明に含まれているとして、発明の詳細な説明と特許請求の範囲が一致しないとか、又は矛盾がある場合であるとも見難い。
よって、原審が本件訂正請求は「不明確な記載を明確にする場合」に該当しないと判断したのは正当である。
2.進歩性について
進歩性判断の対象になった発明の明細書に開示されている技術を知っていることを前提として、事後的に通常の技術者がその発明を容易に発明できるかを判断してはならない。 
 本件第1項発明の熱貯蔵チップは金属またはセラミックを含むものであるのに対し、比較対象発明1のシリコンチップはシリコンを材質とするという点で差がある。
ところが、本件第1項の発明は皮膚に冷気または温気を印加して痛みや不快な感覚を緩和することができるディスペンサを提供しようとする技術的課題を解決するために熱を貯蔵及び伝達できる特性を有する金属またはセラミック材質の熱貯蔵チップをその解決手段として採択したものであるが、比較対象発明1にはこのような技術的課題及びその解決原理に関する記載や暗示がない。また、比較対象発明1は、唇にリップスティックまたはリップグロスを塗るときに指で塗るようなソフトな感じを感じられるようにすることを技術的課題の1つとしているものの、比較対象発明1でシリコンチップの材質を皮膚に異質感を提供する金属またはセラミックに変更する試みは、このような比較対象発明1の技術的課題に反するものであるか、又は比較対象発明1本来の技術的意味を失わせることになり容易に考え出し難い。さらに、本件第1項の発明は金属またはセラミック材質の熱貯蔵チップに関する構成が他の各構成と有機的に結合することによって皮膚に冷気または温気を印加して痛みや不快な感覚を緩和できるようになる特有の効果を奏するようになるが、このような効果は比較対象発明1から予測するのは難しい。
 とすれば、本件特許発明の明細書に開示された発明の内容を既に知っていることを前提として事後的に判断しない限り、通常の技術者が比較対象発明1から本件第1項の発明の熱貯蔵チップを容易に導き出すことができないといえるが、そのような事後的判断は先に見たように許容されないので、結局、本件第1項の発明の進歩性が否定されるとはいえない。
 
【専門家からのアドバイス】
本判決は、訂正要件及び進歩性に対して原則にのっとった忠実な判断であると言える。本件訂正請求は、後の進歩性に関する攻防から見て、特許発明の明細書にもともと記載されている「高密度プラスチック」、「複合物」などが比較対象発明1の「シリコーン材質」と類似するため、効果上の差がないという請求人の主張に対する対応として取られたものと予想される。本来比較されるべきは、本件第1項の発明の請求範囲の記載と比較対象発明1なのであるから、明細書の詳細な説明部分の記載を削除訂正したとしても進歩性判断には影響がないのが当然なのであるが、相手側の反論の余地を未然に排除する意味でこのように対処しようとするケースは実務上しばしば見受けられ、これを「不適切な訂正」と判断した原審は極めて正しい。
そしてまた、比較対象発明と本件明細書に記載されているやや広義な構成が類似するので、請求の範囲に記載された発明も効果上の差が認められないという方式の判断は、現在、審査段階でもしばしば行われているのが実情であり、これに対しても同様に「発明の詳細な説明からの安易な削除」で明細書の詳細な説明部分の記載と請求範囲の記載の差をなくすだけでは対処が不十分な場合があることを今一度認識しておきたい。
本判決では、幸いにも、事後的考察は妥当でなく比較対象発明1の構成から出発して比較対象発明1の目的/解決手段を参酌するとき、本件発明に到達することが容易かどうかを判断すべきという結果となったが、本判決の内容が広く参考されて審査、審判段階で請求の範囲の記載不備及び進歩性についてより適切な判断が行われることを期待するだけでなく、権利者や出願人の側もより本質的な対応方法を選択していく必要があることを銘じたい。
 

 
 
 
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